コンサルティング業界における副業の状況は、近年大きく変化しています。かつては厳しく制限されることが一般的でしたが、働き方改革の推進や個人の多様なキャリア志向の高まりを受け、副業を容認するコンサルティングファームが増加傾向にあります。しかし、全てのコンサルファームが副業を許可しているわけではなく、ファームの種類や企業文化、取り扱う案件の機密性によって、そのスタンスは様々です。
本記事では、副業が可能なコンサルファーム各社の状況に触れるとともに、副業を禁止する会社と許可する会社、それぞれの理由や業界全体のトレンドについてわかりやすく解説します。
コンサルファームの副業事情
経営戦略や財務会計、人事組織、ITなど様々なプロフェッショナルが所属するコンサルティングファームの副業事情についてみていきましょう。
副業を許可するファームと禁止するファームがある
コンサルティング業界における副業の可否は、各コンサルファームの経営方針や企業文化、取り扱うプロジェクトの性質によって大きく異なります。伝統的な戦略系コンサルファームや、高度な機密性を要する業務を扱うファームでは、情報漏洩のリスクや利益相反の可能性、社員の長時間労働といった懸念から、副業を原則禁止としているか、非常に厳しく制限しているケースがみられます。これは、クライアントへの最大限のコミットメントと、ファームのブランドイメージ維持を重視するためです。
一方で、近年では働き方改革の推進や、多様な人材の獲得・定着を図る観点から、総合系やIT系を中心に、一定の条件のもとで副業を認めるコンサルファームが増えてきています。しかし、その場合でも、会社への事前申請と審査が必須であり、本業への影響がないこと、競合他社との関係がないことなどが厳しく問われます。
コンサル市場が拡大し業務委託案件が増加している
近年のデジタル化の加速やグローバル経済の変動、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進などの影響により、コンサルティング市場は継続的に拡大しています。これに伴い、専門性やコンサル経験を持つ人材に対する企業の需要が高まっており、プロジェクト単位での発注やスポットコンサル、外部コンサルタントの活用が増加傾向にあります。雇用ではなく、業務委託とすることで、企業側は、必要な時に必要なスキルを持つ人材を柔軟に確保でき、人件費の最適化を図れるメリットがあります。
コンサルタント側も、自身の専門性を活かして複数の案件に関わることで、収入源の多様化やスキルアップ、キャリアの幅を広げることが可能となります。このような市場環境の変化が、正社員コンサルタントの副業への関心を高める要因の一つとなっています。
副業マッチングサービスを利用して仕事を探せる
コンサルタントが副業を探す手段として、近年、エージェントやクラウドソーシングなどマッチングサービスの活用が一般的になってきました。これらのサービスは、企業が抱える多様な課題に対し、スキルや経験に基づいて個人のコンサルタントをマッチングするプラットフォームを提供しています。一般的な求人サイトでは見つけにくい、スポット的なプロジェクトや特定の専門知識を要する案件が豊富に掲載されており、時間や場所にとらわれずに柔軟な働き方を選択できる点が魅力です。
登録することで、自身の経歴や得意分野をアピールでき、興味のある案件に直接応募したり、企業からのスカウトを受けたりすることも可能です。これらのサービスを利用することで、自身の市場価値を把握しながら、副業として関われるコンサルティング案件を効率的に見つけることができます。
副業が可能なコンサルファーム
日本国内においても副業を解禁するコンサルティング会社が増えてきました。しかしながら、副業を許可するかどうかはファームの方針によりけりです。副業を原則禁止としていたり、厳しく制限している会社も多いです。これは、情報漏洩のリスクや利益相反の可能性、社員の長時間労働といった懸念があるためです。
しかし、近年では働き方改革や多様なキャリアパスへの理解が進み、BIG4と呼ばれる総合系コンサルファームを含め一部の会社で副業に関する規定が緩和される動きも見られます。許可制なども含め副業が可能なコンサルティングファームの一部を紹介します。
A.T.カーニー
A.T.カーニーは、戦略系コンサルティングファームとして、クライアント企業の根幹に関わる課題解決を手掛けています。そのため、企業機密性の保持やプロジェクトへの集中を重視する文化があり、原則として副業は厳しく制限されています。しかし、個別の事情や副業内容によっては、会社への事前申請と承認を経て許可されるケースも皆無ではありません。その場合でも、本業への影響が最小限であること、競合に当たらないこと、情報漏洩のリスクがないことなどが厳しく審査されます。副業を検討する際は、事前に人事部門や上司と綿密な相談を行い、会社の方針を十分に理解しておく必要があります。
ローランド・ベルガー
ローランド・ベルガーは欧州を代表する戦略系コンサルティングファームであり、クライアントへの深いコミットメントと高品質なサービス提供を重視しています。そのため、社員の副業に対しては慎重な姿勢を取っており、原則として制限が設けられています。これは、機密情報の保護や利益相反の回避、そして社員が本業に専念できる環境を確保するためです。ただし、個別のケースにおいては、会社が承認する形で副業が認められる可能性もゼロではありません。その際には、具体的な副業内容や時間、本業との兼ね合いなどを詳細に申請し、会社からの厳格な審査を受ける必要があります。
ベイン・アンド・カンパニー
ベイン・アンド・カンパニーは、成果主義とチームワークを重視する戦略系コンサルティングファームです。クライアント企業の変革を支援するため、社員には高い専門性とコミットメントが求められます。このような企業文化から、副業については原則として禁止されているか、非常に厳しく制限されているのが実情です。これは、クライアント情報の機密保持、利益相反の回避、そして社員がプロジェクトに最大限集中できる環境を維持するためです。例外的に副業が認められるケースは極めて稀ですが、万が一許可される場合でも、会社への事前申請と厳格な審査、そして本業への影響がないことなどが条件となります。
PwCコンサルティング
PwCコンサルティングは、多様なサービスラインを持つ総合系コンサルティングファームであり、近年は働き方の多様化にも力を入れています。副業に関する明確な公表は少ないものの、他の総合系ファームと同様に、原則として副業は制限される傾向にあります。しかし、個別のケースや副業内容によっては、会社への事前申請と承認を経て許可される可能性も考えられます。特に、自身のスキルアップや社会貢献に繋がるような活動、本業との利益相反がなく、機密情報漏洩のリスクが低いと判断される場合には、柔軟な対応が期待できるかもしれません。いずれにせよ、まずは会社の人事規定を確認し、担当部門に相談することが不可欠です。
デロイトトーマツコンサルティング
デロイトトーマツコンサルティングは、日本最大級の総合系コンサルティングファームとして、幅広い業界・テーマのプロジェクトを手掛けています。同社も原則として副業は制限されていますが、働き方改革や個人のキャリア自律を支援する動きの中で、近年は副業に関する規定が柔軟化されつつあるという声も聞かれます。具体的には、本業に支障がなく、情報漏洩や利益相反のリスクがないと判断される場合に限り、会社への事前申請と承認を得て副業が認められるケースがあります。副業を検討する際は、会社の規定を十分に理解し、透明性をもって申請手続きを進めることが重要です。
EYストラテジー・アンド・コンサルティング
EYストラテジー・アンド・コンサルティングは、EYのコンサルティング部門として、戦略から実行まで一貫したサービスを提供しています。他社の総合系コンサルティングファームと同様に、副業に関しては原則制限があると考えられますが、近年は社員の多様な働き方を支援する動きも見られます。副業が許可される可能性のあるケースとしては、本業に影響を与えず、競合に当たらず、情報セキュリティ上のリスクがないことなどが条件となるでしょう。具体的な許可の可否は、個別の副業内容や会社の承認プロセスに大きく依存します。副業を検討する場合は、必ず会社の人事部門や上司に事前に相談し、正式な手続きを踏むことが求められます。
KPMGコンサルティング
KPMGコンサルティングは、グローバルネットワークを持つ総合系コンサルティングファームとして、多様な専門性を提供しています。副業に関する公式な発表は少ないものの、他の大手コンサルティングファームと同様に、原則として副業は制限される傾向にあります。これは、顧客情報の機密保持や利益相反の回避、そして社員が本業のプロジェクトに集中できる環境を確保するためです。ただし、近年は働き方の柔軟性を求める声の高まりを受けて、個別のケースで会社への事前申請と承認を経て副業が許可される可能性もゼロではありません。副業を検討する際は、必ず会社の規定を確認し、不明な点は人事部門に問い合わせることが賢明です。
アクセンチュア
アクセンチュアは世界最大級の総合系コンサルティングファームであり、その規模と多様なプロジェクトで知られています。アクセンチュアも原則として副業は制限されていますが、近年では社員の多様な働き方やスキルアップを支援する観点から、副業に関する規定が緩和される傾向にあります。具体的には、会社への事前申請と承認が必須であり、本業に支障がないこと、情報漏洩や利益相反のリスクがないこと、競合他社での活動でないことなどが厳しく審査されます。社員が自身のキャリアプランを広げるための副業であれば、比較的認められやすいという声もありますが、いずれにしても会社の承認プロセスを経て進める必要があります。
コンサル業界における副業のトレンド
コンサルティング業界の副業は、近年大きな変化を見せており、そのトレンドは多岐にわたります。かつての「副業禁止」が当たり前だった時代から、柔軟な働き方を模索し、個人のスキルを最大限に活かそうとする動きが顕著になっています。
専門分野特化型副業の増加
コンサルタントの副業のトレンドとして顕著なのが、自身の専門分野に特化した高付加価値な案件への参画が増えている点です。DX(デジタルトランスフォーメーション)推進、AIツールの導入支援、デジタルマーケティング、人事戦略、BPR(業務プロセス再構築)、IT・システム関連など、企業が喫緊の課題として抱える領域でのコンサルティング需要が高まっています。これは、企業の特定の課題に対して、ピンポイントで専門知識や実務経験を持つコンサルタントを求める傾向が強まっているためです。例えば、AIコンサルタントは、企業へのAI導入戦略立案から実装支援、社員教育まで一貫してサポートする案件が増加しており、特に注目されています。
スポットコンサル・短期間プロジェクトの浸透
本業を持つコンサルタントが副業として関わりやすい形式として、「スポットコンサル」や「短期間プロジェクト」の需要が拡大しています。これは、数時間から数日の有識者インタビューやアドバイス、あるいは数ヶ月程度の期間限定プロジェクトに参画する形式です。拘束時間が短いこと、リモートワークが可能な案件が多いことなどから、本業との両立がしやすく、副収入を得るだけでなく、自身のスキルアップや新たな分野での経験を積む機会としても活用されています。企業側も、大規模なコンサルティング契約を結ぶことなく、必要な時に必要な知見を効率的に得られるため、この形式の需要は今後も増加すると見込まれます。
働き方改革と企業側の副業容認の動き
コンサルティングファームの副業に対する姿勢にも変化が見られます。かつては原則禁止だった大手コンサルファームの一部でも、働き方改革の一環として、副業を一定の条件のもとで容認するケースが増えてきています。これは、優秀な人材の確保と定着、そして社員の自律的なキャリア形成を支援する目的があります。ファーム側も、社員が副業を通じて得た新たな知見やネットワークが、結果的に本業にもプラスに作用すると捉え始めています。ただし、引き続き情報漏洩や利益相反のリスク管理は厳しく行われており、事前申請・承認は必須です。この傾向は、今後も継続し、より柔軟な働き方が浸透していくものと考えられます。
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